まず、遺言が特に必要な場合をご説明します。
1.相続人がいない−亡くなった後の相続人が一人もいない−ケース
この場合、遺言がないと、
①相続財産管理人選任の申立
②相続財産管理人選任
③債権者、受遺者等への公告、相続人捜索の公告(一定期間処分ができない)
④特別縁故者(内縁の妻など)による財産分与の申立
⑤国庫へ帰属
という流れで、最終的には国庫−国−に財産を引き渡すことになります。
お世話になった人に財産をあげたい−遺贈したい−場合などは、
必ず、遺言を作成してください。
次に、
2.内縁関係、事実婚関係である、遺言者に内縁の妻、夫がいる場合です。
日本の現行法は、
①法律婚主義(夫婦の実体+婚姻届)
②内縁の妻に相続権はない
という取り扱いですので、
内縁の妻に遺贈をしたい場合は、
必ず、遺言を作成すべきでしょう (但し、子や直系尊属がいる場合には遺留分に注意)。
次に、
3.先に亡くなった子の配偶者に引き継がせたい場合です。
例えば、
長男死亡後も、長男の両親の世話をしている長男の妻がいる場合に
父母に相続が発生した場合などです。
日本の現行法では、
①長男の妻に長男の両親の相続権はない
②長男の子がいればその子は代襲相続人として相続するのですが、
子がなく、かつ住んでいる家の名義が親の名義であれば他の子が相続することになる、
というのが取り扱いですので、
両親から長男の妻に遺贈をしたい場合は、
遺言をぜひ作成すべきです (但し、他の子の遺留分に注意)。
次に、
4.夫婦の間に子供がいない場合です。
日本の現行法による取り扱いとしては、
①子供も直系尊属もいなければ被相続人の兄弟姉妹に相続権あり、
②配偶者の兄弟でもすんなりとは遺産分割に協力してくれない場合がある、
③遺産分割を受けていれてくれても、それなりの代償が必要な場合がある、
というのが現実です。
特に、
居住不動産がある場合は、
実際に不動産を分けることができないので(但し共有というのは可能)、
場合によっては、価値に見合った額の代償分割金を支払う必要も出てきます。
こういう場合は、ぜひ、妻に相続させる旨の遺言を残してあげるべきでしょう。
特に、
兄弟姉妹に遺留分はありませんので有効です。
ほかにも、
5.推定相続人の中に行方不明者がいる場合は、
遺言を作成していないと、
①行方不明者も遺産分割協議を有効にするには参加が必要なので、
②不在者財産管理人選任の申立て(費用、期間)を要し、
③選任された管理人との間で法定相続分に見合う分割をして、
④その後、原則的には失踪宣告(7年)をして、
⑤失踪宣告されると死んだとみなされ−親族内には感情的な抵抗も強い−、
⑥そのうえで、再度遺産の分割を実施
することになります。
行方不明者がいて今後も戻ってくる可能性が低いのであれば、
他の者に相続、遺贈することを考えてみるのもよいでしょう。
但し、行方不明者が帰来した場合には遺留分減殺の可能性はあります。
さらに、
6.家業を継ぐ子供に事業用財産を相続させたい場合は、
遺言がないと、
①法定相続で事業用財産が分散の可能性あり、
②結果、事業存続の危機もあり得る
そこで、
事業承継者に事業用財産は相続させる、
他のものには事業用財産以外のものを相続させるという遺言の作成が有効となります。
また、
7.現在別居中で事実上の離婚状態にある配偶者がいる場合などは、
遺言がないと、
①別居中であっても法律上の妻であれば相続権あり、
子供がいなければ両親もしくは兄弟姉妹と配偶者が対立
②あげたくないという意思も通らない。
そこで、
妻には一切相続させない、
もしくは遺留分を侵害しない最低限の相続とするなどの遺言の作成が必要となります。
ほかにも、
8.再婚したことにより、例えば先妻の子供と、後妻がいる場合は、
法定相続となると、
①先妻との間の子と、後妻が相続人となり
−通常は、後妻と、先妻との間の子が財産について話し合うなどは、結構大変−
②後妻が居住する居住用不動産がある場合などは、
先妻の子に理解と協力を求めることが必要となる。
後妻には居住用財産を相続させ、
先妻との間の子にはその他の財産を相続させるという遺言が望ましく、
遺留分を害しない程度で相続割合の指定などをするのもよいでしょう。
以上が代表的な遺言をした方がよいとされる例ですが、
ほかにも活用したいケースはあります。